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スクールカウンセラー(17)アスペルガーの子との関わり たつとみ先生

スクールカウンセラー

素敵なせんせいをめざすあなたに

管理人
管理人

管理人が公認心理師をめざすにあたり、対策講座でお世話になった心理系予備校プロロゴスで知り合った たつとみ先生。

スクールカウンセラーとして活躍されているたつとみ先生に、スクールカウンセラーをめざす経緯や体験を連載していただいています。

類似した事例に関わってはいますが、内容はフィクションです。

前回のお話はこちら⬇️

スクールカウンセラー(16)学校対応 たつとみ先生
たつとみ先生
たつとみ先生

※物語はフィクションですが、読まれた方にその際の感覚や感情をなるべくリアルに感じ取って頂くために実際にあった出来事に似せて不適切な表現を使用しています。ご了承下さい。

スクールカウンセラー 高機能自閉症の子との関わり

S君と最初に出会ったのは、彼が小学4年生の時だった。

K中学校に赴任して2年目ぐらいだったと思うが、隣の市にある大きなA小学校のある中学校区に勤務されているスクールカウンセラーの先生から、S君についてお電話を頂いたのが彼との関わりの始まりだったと記憶している。

そのお電話で、今度、母子家庭となり、お母さんの実家のあるK中学校区のK小学校へ転校となるS君についてのお話と、内容が詳しく描かれていたお手紙を送付しますと伺った。

S君はアスペルガー症候群の診断を受けた自閉症の子だった。診断を受けたのはつい最近であり、もうすぐ5年生になるのに合わせて、K小学校の特別支援学級に転入してくることとなっていた。

3人兄弟の一番上で、新しい環境や人と関わることに対して抵抗感が強いとのことと、お母さんの不安感から前もって転入先のスクールカウンセラーである自分と連携が取っておきたいとのことで連絡を頂いたのだった。

先だって自分の勤務するK中学校にS君とお母さんが面接に来られ、お話を聞くことになった。

S君はきょろきょろと辺りを見回して落ち着かない様子がみられたが、質問したことなどにはしっかりと答えることが出来た。

話をしていくうちにモノづくりが大好きで、溶接が出来るようになりたいと話すような子だった。

実際にSCである自分もモノ作りが好きだと話すと、

S君
S君

ジグ溶接とアーク溶接って出来ますか?

と聞いてきた。

たつとみ先生
たつとみ先生

溶接は溶接機もないし、さすがに出来ないね

と答えたが…。

お母さんはとても理解のある方で、S君の発達障害に対してもとても理解があり、障害についてもよく知っておられる方だった。

家庭の自営業で働く予定なので、いつでも何かあったら声をかけて下さいと話されていた。

スクールカウンセラー S君のウエストポーチ

 S君は5年生になりK小学校の特別支援学級に転入してきた。保育園時代に関わっていた子が同級生にもたくさんおり、交流学級で関わる際も思いのほか、すんなりと学校に馴染むことが出来ていた。

順調に学校生活を送る中でS君にちょっとした事件が起こった。K小学校の近くにある浜辺で清掃作業を校外学習で行っている際にS君が歩けなくなったというのだ。

よくよく話を聞いてみると、S君はいつも腰にパンパンに膨らんだウエストポーチを三つもぶら下げて歩いていた。

以前、なぜなのかを聞いた際に

S君
S君

忘れ物をしないように…

と答えていた。

そのウエストポーチの中には筆記用具をはじめとして軍手やセロハンテープ等々、授業で使うであろう物から普段の生活で役に立ちそうなものまで、様々なものが入っていた。

どうやら以前学校で忘れ物をして怒られたことがあり、彼なりにそういったことが二度と無いよう、全てを持ち歩こうという考えに至ったようだった。

しかしながらその三つのウエストポーチは小学5年生になったばかりの彼が持ち歩くには少々、いや大人持ち歩くにしても重いものだった…。

腰痛で病院にかかり、ウエストポーチをつけることに対してドクターストップがかかった。心のよりどころであるウエストポーチを無くしてしまったS君は学校で不安定になった。

SCから言えることは

たつとみ先生
たつとみ先生

何か別の彼が安心できる物事を一緒に探してあげてください。

と先生に伝えることだけだった。

 しばらくしてS君の教室を訪れると、教室の後ろにカーテンで区切られたこどもが1~2人は入れる程度のスペースが出来ており、そこには大きなヘッドホンと共にラジカセが置かれていた。

S君は音楽を聴くこと(特にサザンオールスターズを聴くこと)が好きだった。

落ち着かない時には彼専用のスペースにこもり、壁を向いて座ってヘッドホンをして一人で音楽を聴いていた。

そしてだいたい落ち着いてくると出てくる…といった流れになっていた。

落ち着かない時は、自分から

S君
S君

こもります…

と言って入っていくようにもなったそうだ。

スクールカウンセラー S君の調理

 S君はその後、自分がSCとして勤務するK中学校の特別支援学級に進学してきた。数学が苦手で、担任のH先生がマンツーマンで指導し、交流学級でも同級生と違和感なく過ごしていた。

 中学生になって彼と関わっていて気が付いたのが、アスペルガーと診断されているにも関わらず、他の同じ診断を受けている子と比べ、対人コミュニケーションをはじめ、いろいろなことをする能力が非常に高いということだった。

何故か疑問に思っていたが、それがお母さんと面談した際に明らかになった。船会社で家の中に事務所があり、そこで働くお母さんは、長男であるS君にいろいろな家事をさせていたのだが、その指示の出し方に特徴があった。

例えばカレーの作り方を教える際にも一度にやり方を説明したりするのではなく、

S君のお母さん
S君のお母さん

まずこうして玉ねぎ切って!

と一度見本を見せて、それをさせている間にお母さんは仕事をする。玉ねぎを切り終わったS君はお母さんを呼び、

じゃあ次はこうしてニンジン切って!

と、また見本を見せて実際にさせる・・・というように、一つ一つの工程を別々に教えるということを普段からしていたのだそうだった。別にアスペルガーがどうとかいう意味ではなく、単にお母さん自身が仕事をするのにその関わり方の方が楽だからというのがその理由だった。

 その『こういう時にはこうする』といった一対一対応こそがこうした自閉的な特性を持つ子には覚えやすく成長しやすい…。

それを体感としてやっていたことがS君の成長につながったのだということがあとからわかったのだった。

 そんなS君も中3になり、高校を普通に受験することになった。私立高校と公立高校両方とも合格し、お母さんと話した結果、自分自身のやりたい部活もあるということで私立高校に進学した。

そのやりたい部活というのがソーラーカーを 作ってレースに参戦するというもので、小学校時代に彼から質問を受けた溶接技術も身に付けることとなっていた。

人との関わり方がわかった!

S君
S君

この自分のアスペルガーがっ!!

と、人との関わりに苦労しながら生活していたが、お母さんにたまたまお会いした時にこんなことを言われていた。

S君のお母さん
S君のお母さん

ある日、いきなり

S君
S君

人との関わり方がわかった!

と言って、今までのしんどさが嘘みたいに学校に通ってます…

 どうやら彼自身の経験からくる人との関わり方が蓄積していって、彼の中で納得のいくパターン化が出来上がったということなのだろうと思った。

 

スクールカウンセラー S君、工業大学の大学生に

そんな彼はその後金沢の工業大学に進学し、1人暮らしをして、今は社会人になっていると聞いた。

自閉の子の成長過程を通年で関わらせてもらい、パターン化された記憶によって成長していくということを学べた、SCとしての自分にとって貴重な経験であったと思う。

https://sensei.style/Japan/wp-content/uploads/2021/08/C7D8F7D4-C495-4939-8528-F0FC53808EBB.jpeg管理人

たつとみ先生、今回も素敵なお話ありがとうございました!

アスペルガーの特性をもつS君の成長ぶり、こちらまでうれしくなりました。

 腰が痛くなるほど荷物を入れて、ウエストポーチを携帯していたS君。荷物の多さは不安の大きさ。

 そんなS君を温かく見守っておられた保護者さんや学校の姿勢も素敵だなと感じました。

調理の手順を、ひとつずつ示したお母さんの手腕。

たつとみ先生が、「一対一対応こそが覚えやすく成長しやすい」と仰り、教育にかかわっている者としてこういう視点は大切だな、と気づかされました。ありがとうございます。

 自閉的な特性をもつ子に

こういう時にはこうする』といった一対一対応こそがこうした自閉的な特性を持つ子には覚えやすく成長しやすい

「人との関わり方がわかった!」と告げ、その後は人とのかかわりを上手にされているS君。少しずつ培った経験が活きてきたのですね。

マニュアルが見せにくいことなので、お母さんもさぞ喜ばれたことでしょう。うれしい報告をされて来られたたつとみ先生への信頼を感じます。

人との上手な距離の取り方…。

社会で生きていくために大切な要素ですね。

.現在小学校教員として、今までに個別懇談や面談などでたくさんのおうちの方とお話しています。

学年が上がってきたお子さんの心配事は、目の前の学習課題や生活課題だけでなく、将来の進路…

特に、対人面や精神面、学習面で不安を抱えるお子さんの場合、将来を見据えて直近の進学先に悩まれる例も多くあります。

(小学校での個別懇談の時には、担任しているお子さんの件よりも、上のごきょうだいの進路についてお話をされる時間が長いことも…笑)

今回のお話は、自分らしさを活かして社会人として自立された好例として、大変うれしく思いました。

お子さんの好きな部活のある高校を選択したり、興味のあった溶接のできそうな工業大学に進学したり

特性あるなしにかかわらず、どんなお子さんでも、好きなことや得意なことを伸ばし、独り立ちしていけるように励まし見守る…

おうちの方や教師など身近な大人の関わりこそ、その子らしく社会人として一人前にしていく原動力ではないかと、思わされました。

https://sensei.style/Japan/wp-content/uploads/2023/01/8677FE34-C43E-450A-85CF-634197B8C4C0-scaled.jpeg

ちなみに…

ジク溶接とアーク溶接、全く分からなかったので、笑

TIG(ティグ)溶接とは『溶接棒を使うアーク溶接』のことだそう

 ジク溶接(TIG溶接)とは

TIG溶接(ティグようせつ)とは、電気を用いたアーク溶接方法の一種である。TIGは、Tungsten Inert Gasの略で、タングステン-不活性ガス溶接の意であり、電極棒に消耗しない材料のタングステンを使用して、別の溶加材(溶接棒)をアーク中で溶融して溶接する方式である。

Wikipediaより

 アーク溶接とは

アーク溶接(アークようせつ、英語:arc welding)とは、空気(気体)中の放電現象(アーク放電)を利用して、同じ金属同士をつなぎ合わせる溶接方法である[1]。アーク溶接の用途は広く、自動車鉄道車両船舶航空機建築物建設機械など、あらゆる金属構造物に一般的に使われている。母材は鉄鋼が多いが、アルミニウムチタンなどほかの金属にも利用される。

Wikipediaより

https://sensei.style/Japan/wp-content/uploads/2021/08/C7D8F7D4-C495-4939-8528-F0FC53808EBB.jpeg管理人からのお願い

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たつとみ先生
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